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【ベトナム】スタートアップ企業への投資と起業家の資質|「澄んだ水で満たされた、欲求のタンクが大きい起業家」を増やしたい

2020年10月末よりジェネシア・ベンチャーズのベトナムオフィス代表に着任した河野優人さん。ベトナム市場の現況やスタートアップ企業に期待すること、起業家の素質などをお聞きしました。

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・ベトナムのスタートアップ企業について知りたい人、協業したい人
・ベトナムで新規事業をこれから興す予定の人、現在新規事業を実行中の人
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河野 優人
2013年にインドの日系スタートアップで不動産事業の立ち上げを経験した後、Edtechスタートアップ「Quipper」(後にリクルートが買収)で学習コンテンツの開発マネージャー、ITテクノロジーメディア 「YourStory」での日本向けサイトの立ち上げに従事。2015年より、サイバーエージェント・ベンチャーズ(現:サイバーエージェント・キャピタル)のインドリサーチ担当としてバンガロールに常駐し、現地のマーケットリサーチや有望なスタートアップ発掘に注力。
2017年4月より株式会社ジェネシア・ベンチャーズに参画し、日本・東南アジア・アフリカで20社以上のスタートアップへの出資を担当。同社インドネシアオフィスを経て、2020年10月よりベトナムオフィス代表に就任。

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今の中国はベトナムの10年後の姿、安定した政治と製造業の強さが魅力

ベトナムのスタートアップ企業が注目されるのは主に2つの理由があって、1つ目は「マーケット」としての可能性、2つ目は「人材」の魅力です。

まずはマーケットですが、現在ベトナムの人口規模は約1億人。東南アジアではインドネシア、フィリピンに次いで第3位、平均年齢が31~2歳と若いこともポイントです。名目GDPは3400億米ドル(約35兆円)で、インドネシア、タイ、フィリピンに次いで東南アジア第4位で、2015-2019年のGDP成長率は6~7%となっています。

新型コロナウイルス感染症の対策にも成功したと言われ、2020年は世界経済の成長率がマイナスである中で、ベトナムはプラス成長を維持しています。

共産党による政治は安定しており、ひとつひとつの政策を実行するスピード感に長けています。それにより製造業の呼び込みに成功したことが、近年の高い水準での経済成長につながった理由の1つとされています。

私はこれまでインドに3年、インドネシアに1年いたのですが、両国の弱点は製造業が弱いことでした。それに比べ、ベトナムでは米中の貿易摩擦も追い風となって、国内の製造業がさらに強化されたことは、雇用の拡大を生み、それによって国民の所得が増え、中間層が育っています。中国も製造業が拡大したことで経済成長のチャンスを掴みました。1人当たりGDP基準では今のベトナムは12~13年前の中国だと言われています。

Eコマースの新たなビジネスモデルに大きなチャンス

所得の拡大により中間層が増大すると、消費者市場に変化が起こります。ベトナムの1人当たりGDPは現在3,000米ドル前後ですが、2030年までに2倍の6,000米ドル以上へと成長すると言われています。GDPが1人当たり5~6000米ドルを超えると支出に占める割合が家賃や生活必需品からさまざまな消費に移行します。それに伴い教育、金融、ヘルスケア、エンタメなどのサービスが伸び、そこにITサービスが参入していくことでさらに市場が大きくなると考えています。

今でもEコマースの分野はコロナ禍でも成長したことで注目されていますが、課題も浮上しました。ひとつには物流と決済の問題であり、もう1つは地方都市にEコマースがまだまだ普及していないという点です。今後はそうした課題に向けたサービスも注目されるでしょう。

また、オンラインとオフラインを掛け合わせた店舗型ビジネス、いわゆるOMO(※)にも注目しています。私たちの投資先であるOMO型学習塾のManabie(マナビー)がこの分野の1つの事例ですが、アパレル、金融、フィットネスの分野でもこの業態が増えると思われます。それとともにデジタルを前提としたフランチャイズ型のビジネスも伸びていくのではないでしょうか。

とはいえ現状では、まだデジタルトランスメーション(※)は社会全体のメインストリームになっていません。理由は賃金水準やITリテラシーの低さなどです。デジタルの力で解決できそうな事例がある場合も、人件費の安さが故に人海戦術で解決した方がコストパフォーマンスがよいという結果になってしまっています。

この課題が横たわる今は、企業の業務効率化のためだけのプロダクトではなく、例えばB2Bマーケットプレイスのような売上向上に貢献できるプロダクトの方が事業として推進しやすいと考えられます。

※OMO:「Online Merges with Offline」の略。消費者の行動がオンライン・オフライン関係なく、一貫性の高い消費体験を生み出すこと
※デジタルトランスフォーメーション:「デジタル技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念
※B2B:Business to Business。企業間取引を意味し、企業が企業に向けて商品やサービスを提供する取引を指す。

国内人材の強みを生かした国外への展開に期待

次に「人材」という観点からの可能性です。ベトナムは世帯収入の約20%を教育に支出するとも言われており、東南アジアでもトップクラスに教育熱が高い国です。OECDの「教育到達度調査」(※)でもベトナムは全体で12位、東南アジアではシンガポールに次いで2位でした。

今は都市部の子どもたちを中心に英語教育とSTEM教育(Science, Technology, Engineering and Mathematics)が盛んであり、この子たちが成長した時にどんな人材に育っているのか、今から楽しみですね。

直近3年の傾向でも、海外で教育を受けた若者が起業するケースが増えており、今後10年くらいの間にベトナムの経済界でリーダーシップをとっていくだろうと言われています。同時に外国人の起業家や投資家も国内に増えており、スタートアップエコシステム(※)が育成されつつあります。

ベトナムはエンジニア人材が豊富なので、東南アジアを中心とした国外に向けてB2Bのサービスを提供するスタートアップが増えていくといいですね。

急速に発展を続けるホーチミンシティ

例えば、「Holistics(ホリスティックス)」というベトナム人とシンガポール人が共同創業した会社があるのですが、開発拠点がベトナム、営業拠点がシンガポールにあり、GrabやTraveloka、LINEといった東南アジアを代表するスタートアップや海外企業のクライアントがついています。

実はインドにはこうしたビジネスモデルが多いです。インドなら米国の半額程度で開発が可能なので、そのアドバンテージを活かしているのですね。米国帰りの起業家がそのキャリアやネットワークを活かして、ベトナムで開発したものを米国で売っていくようなアプローチに期待したいです。

※スタートアップエコシステム:大企業や大学の研究機関、公的機関などがネットワークを作り、スタートアップを生み出しながら発展していくシステムです。
※教育到達度調査:PISA(Programme for International Student Assessment)。OECD加盟国を中心として3年毎に実施される15歳を対象とした国際的な学習到達度テスト

起業家に絶対必要な2つの資質

よくベンチャーキャピタルとして「どのような資質の起業家に投資したいと思いますか?」と聞かれます。ちょっと抽象的な表現ですが、それには「澄んだ水で満たされた欲求のタンクが大きい人」と答えています。

「澄んだ水」とは成功の目的が自分個人ではなく、社会貢献であるというメンタリティで、「欲求のタンク」とは自分への期待値であり、欲しい未来のビジョンを描く力、そこに到達しようとする意志や他者を巻き込んでいく素質や才能のことです。社会に変革を起こしたい、より大きなことを成し遂げて社会を良くしたいという起業家にとって「自分がお金持ちになりたい」という欲が大きすぎると、ある程度の成功で満足してしまい本来の目的を達成できません。また、欲求のタンクが小さいとこれもまたある一定の成果がでたところで満足してしまい、社会変革にまで至れません。

スキルセットは「澄んだ水」と「大きな欲求のタンク」があれば、後からついていくると信じています。ビジネスモデルや時間軸に応じて、常に「今のタイミングで必要な知識や経験は?」「今後必要になるネットワークは?」と意識して動くことが大切です。

それを判断するために「なぜ事業を始めたのか?」「なぜこの共同創業者を選んだのか?」などの質問を重ね、作っていきたい事業の形やビジョンを聞きます。それによって、売り上げや従業員数といった数字からは見えてこないその人の本質、思考過程や事業を拡大していけるパワーがあるかどうかが見えてくるからです。

ベトナム人の起業家を見ていて少し残念に思うことは、大きなビジョンを持ち、それを達成するための行動ができる人が少ないということ。保守的な国民性なのか、とても優秀な人でもリスクテイクを恐れ、小さくまとまろうとする傾向があるように思います。

理由としては、まだ大きく成功しているスタートアップの事例がないので、影響を与えられる人がいない、そういう人の考えや行動に触れる機会がないということが考えられます。今後、たくさんの成功事例やモデルケースが出てくれば、国内の人材も活性化し、スタートアップのエコシステムにも良い影響があるでしょう。リスクテイクしやすい環境を整えて、たくさんの人がチャレンジできるようにしたいですね。

事業を失敗させないために大事な2つのこと

当然ですが、資金調達ができても事業を始めたスタートアップのすべてが成功するわけではありません。うまくいかないケースの共通点としてはまず、”プロダクトマーケットフィット”(※)を達成できないことがあります。顧客が「お金を払って使いたい」と思えるプロダクトを市場に提供できなければビジネスは成立しないのですが、これができずに失敗するケースは多いです。

原因としては、アイデアの段階で十分に検証しないでプロダクトの開発を始めてしまうことがあり、これを避けるためにはユーザーや顧客候補の声を正しく聞くことが大切です。仮説のロジックで固めずに市場の現場にいる人たちの反応を見るだけでなく、直接話を聞きましょう。当たり前のことのように思いますが、企業の新規事業や新商品開発でもこの市場の声を聞くということが徹底できていないケースは多々あります。

ターゲットの市場周辺でたくさんの人に時間をかけてインタビューしたことで、プロダクトのコンセプトだけでなくその業界に応援者を作り、事業に成功したというケースもあります。

事業に失敗する原因の2つ目の共通点としてチームビルディングの問題があります。必要に迫られて基準が曖昧なまま人材を採用するからです。

事業成功のために欠かせない強い組織作り

これを避けるためには、資金調達”シリーズA”より前の早い段階で自分たちがどこに向かいたいのか、会社としてのビジョンやミッションはどこにあるのか、そのためにどういう働き方、意思決定基準を持つのがいいのかという価値観(バリュー)を言語化することが大事ですね。それを共有することで、自分たちのカルチャーが作られ、そこで働く人に求められる一定の基準が見えてくるはずです。組織拡大はその後でも遅くありません。

既存企業内で新事業に投資するときも同様に入念なユーザーインタビューは重要です。また、初期段階で事業の成功までの時間軸や予算規模もある程度固めておくべきです。よくあるケースですが、いい人材がいい市場でチャレンジしているのにリソースの問題で失敗してしまうことは非常にもったいないからです。

(※)プロダクトマーケットフィット(Product/Market Fit)とは、顧客の課題を満足させる製品(プロダクト、サービス)を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態のこと。

既存企業内で新事業に投資するときのヒアリングポイント
・その事業は市場に必要なものか?
・埋めるべき根源的欲求があるのか? 
・既存のソリューションに対して優位性のあるプロダクトを提供できるか?
・それが可能な組織になっているか?
・担当者たちがイニシアティブを持っているか? 
・数値計画と予算規模の見込みに不一致がないか?
・目標に応じてどのタイミングでどのような戦略をとるか?

今回取材に応じていただいた河野さんのnoteはこちら▼
https://note.com/yutodx


Genesia Ventures Vietnam
https://www.genesiaventures.com/

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