【インタビュー】コンカフェ創業者Linh Dung氏|ベトナム国内外で69店舗まで展開した秘訣

本記事は2018年9月に取材し、週刊Vetterに掲載した記事の転載です。

ベトナム国内を席巻中!『コンカフェ』創業者に訊く

『コンカフェ』創業者のLinh Dung(リン・ズン)さん。『週刊ベッター』創刊時の10年前はハノイに1店舗あるのみだったのですが、当時から独特の世界観を表したレトロな店内や斬新な趣向がひときわ異彩を放っていました。共産主義のプロパガンダのイメージをファッション感覚に昇華させ、おしゃれなものに変えてしまうセンス。それがベトナム人たち、特に多くの若者に支持され、現在(2020年10月時点)の店舗数はベトナム国内に62軒、韓国に6店舗、そしてマレーシアに1店舗の合計69店舗となっています。ベトナムを代表するカフェへと成長し、今も躍進を続けています。

創業者は30代女性。週刊ベッター94号(2012年)の『美人百花』のコーナーに登場していただいた過去があり、その縁もあって今回のインタビューに至りました。基本的にメディア取材は辞退しているとのことでしたが、今回は特別にインタビューを受けていただきました!

ビジネスには興味がなかったのですが……

ベッター編集部
本日は取材のお時間いただきありがとうございます。早速ですが、まず最初に『コンカフェ』の歴史を教えてください。
ズンさん
11年前、2007年にハノイのハイバーチュン区Trieu Viet Vuong通り152D番に1号店を開店しました。そして5年後の2012年にハノイのDien Vien Phu通りに2号店、2014年に10店舗になって、その後は一気に増えました。そして現在(2018年時点)は全部で52店舗、韓国にも出店しています。
かつてハノイの152D Trieu Viet Vuong通りにあった創業店舗
ベッター編集部
ここ数年間はすごいスピード出店ですね。
ズンさん
おかげさまで、ここ2、3年は忙しかったですね。だけど、もともと私自身はビジネスや経営に関して強いわけではありません。コーヒーのマーケットに関する理解と、店舗も含めさまざまなデザインが好きというだけです。今は何でも自分にとってのチャレンジだと思いつつ楽しみながらやっています。
ベッター編集部
そもそもなぜカフェを始めようと思ったのですか?
ズンさん
おいしいコーヒーを出すお店はあったけど、きれいでおしゃれなカフェがないと思っていました。だけど自分から積極的に出店したいと思ったわけではありません。
ベッター編集部
では何が出店を決意させたのですか?
ズンさん
趣味の延長で自宅の内装をカフェ風にしていました。インテリア、小物類、食器など自分のお気に入りのものを集めました。あくまで自己満足の世界です。ところが友人たちから「これは実際にカフェを開いた方がいい」と勧められて、最終的に店を出すに至りました。
ベッター編集部
友だちに先見の明があったのですね。自分でも成功する自信はあったのですか?
ズンさん
全然ありません。実際に何度も断りました。そもそもビジネスに興味なかったですし……。
ベッター編集部
最後は友だちのしつこさに負けて開業したということですか?
ズンさん
はい。のせられているうちにだんだんその気になって、最後はじゃあやってみるかって(笑)

モスグリーンは子どもの頃の遠い記憶

ベッター編集部
実際に経営者になってみていかかですか?
ズンさん
いざ始めてみると、想像以上に面白くて興奮しました。もちろん大変なことは多々あります。品質管理、新メニューの開発やサービス、デザインなど、考えることがたくさんあって、そして何より高品質の追求をし続けなければなりません。
ベッター編集部
それはある意味、激化するカフェ市場を生き残るうえでの宿命ですよね。
ズンさん
そうですね。『コンカフェ』のみならず、ベトナムにはさまざまなコーヒーショップが増えています。競合することになるのですが、それは歓迎すべきことです。カフェ市場が広がることは、生活や文化として根付くことにもつながります。材料の安全性をふまえた品質の向上やサービス、多くのカフェが切磋琢磨しながらクオリティーを追求する。それが全体の底上げにつながります。
創業店舗の店内。ここからコンカフェの歴史が始まった。
ベッター編集部
『コンカフェ』が増え始めた2012年から5,6年の間にベトナムは目覚ましい発展を遂げました。カフェの増加と関係するかわかりませんが、それに伴いこころなしか出会うベトナム人たちに笑顔が増え、人々が親切になった気がするのですが……?
ズンさん
いくつか理由はあるでしょうが、インターネットの発達が大きいと思います。2011年頃から比較的自由に海外の情報が得られるようになりました。閉鎖的だった若者が多種多様な情報を得ることで以前よりオープンな考えを持てるようになったからでしょう。
ベッター編集部
情報を得ることで夢や目標ができた。目指す方向が見えると不安が解消され、人々が明るくなる。確かにそういった側面はありますね。さて、経営に関することから話は変わりますが、『コンカフェ』の特徴といってもいい、外観や内装、インテリアなどノスタルジーにも通じるあの独特のコンセプトはどこから生まれたのですか?
ズンさん
子どもの頃の自宅は、軍隊に囲まれたエリアにありました。周辺に公安や軍隊の人がよく歩いていて、緑色の軍服を着た兵士の姿を毎日見かけていました。漠然とした配給時代のイメージですが、私の原風景かも知れません。そんな景色がある日パッと浮かびました。ハノイのカフェ通りと呼ばれていたTrieu Viet Vuong通りで外を眺めていたときにすべてが目の前に広がったんです。その瞬間に「これだっ!」と思いました。そしてさっきお話しましたが、自宅にそのイメージを再現してみたのが始まりです。
ベッター編集部
約30年前のベトナムが『コンカフェ』のイメージの根っこにあるんですね。鮮やかな色彩感覚というよりも『コンカフェ』のテーマカラーともいえるモスグリーンの感じ。それが現代では逆にスタイリッシュで新鮮な気がします。
ズンさん
モスグリーンは私の子どもの頃の記憶に刻まれている最も印象的な色です。だから『コンカフェ』のカラーに採用しました。
ベッター編集部
色の他にも多くのレトロな要素が感じられるのですが、いかがでしょうか?
ズンさん
もちろん壁の色だけではなく、私の過去の記憶のさまざまなものを取り入れています。例えば、暖色の明かりの古いランプや木製の机や椅子、木製の窓枠やドアのフレームもそうです。それらは特別なものではなく、私が子どもの頃は誰もが使っていた一般的なごく普通のものです。
全店舗ではないものの、Tシャツやジャケット、食器類や小物などが売られている。日本へのお土産にもいいかも・・・。
ベッター編集部
古物や手作り品は不思議と人を落ち着かせる。『コンカフェ』の居心地のよさの理由がわかった気がします。

当初はビジネスに関心はなく、好きなデザイン表現の場として個性的なカフェを起業。それが数年間で支店が増え続け、現在(2018年時点)は52店舗。創業者の生い立ちやアイデアの源泉など、気になるところを訊いてみました。

両親は子どもの自主性を尊重する教育方針

ベッター編集部
『コンカフェ』の渋いモスグリーンはズンさんが子どものころによく見ていた兵隊さんの軍服の色だったんですね。ところで幼少時代はどんな子どもだったのですか?
ズンさん
10人兄弟の末っ子ですが、控え目でおとなしい性格でした。今はオープンな性格に変わりましたが……。
ベッター編集部
兄弟が多く、にぎやかな家庭だったと思われるのですが、どんな風に育てられたのですか?
ズンさん
ベトナムでは子どもの時間を親がしっかり管理するのが一般的です。帰宅時間や勉強時間も親が決める傾向が強いです。しかし私の両親は自由に過ごさせてくれました。
ベッター編集部
子どもの自主性を尊重してくれたということですか?
ズンさん
父は家の4分の1ほどの面積を使って子どもたちが自由に過ごす空間を作ってくれました。音楽を練習したり、絵を描いたり、アート活動ができる部屋です。芸術や精神活動ができるようにと父の気遣いだったと思います。
心地よさを生むコンカフェの「レトロ」デザイン
ベッター編集部
ご両親は何をされている方だったんですか?
ズンさん
父は楽器店を経営し、母はカフェをやっていました。
ベッター編集部
カフェは今とそのままつながっていますね。楽器も文化や芸術とつながりがあります。幼少時代の環境が現在の『コンカフェ』の運営でも生かされているのですね?
ズンさん
どうなんでしょう。少しはあるのかな? ただ子どものころは、母親のカフェにお客さんがたくさん入っているのを見ても大変だなとしか思わなかったです(笑)。それもあって経営に興味がありませんでした。まさか将来カフェを創業するなんで思ってもいませんでしたね。
ベッター編集部
でも身近なところに商売を見る機会はあったんですね。
ズンさん
これは両親の商売とは無関係ですが、小学生のころ、近所で音楽イベントがあるときに自分で果物を売っていました。今思えば、このときに商売の面白さを感じていたのかもしれません。
ベッター編集部
では当時、将来は何になろうと思っていたのですか?
ズンさん
音楽教育大学や国立音楽院で学びました。週に三回はいくつかのバンドで演奏しました。子どものころは近所の映画館によく足を運びました。将来はコレになるという具体的なものはなかったかも知れません。でも芸術や創作が好きだったので、漠然とですが、それに関連する仕事に就きたかったですね。
ベッター編集部
音楽は芸術。楽器店経営のお父さんの影響も大きかったとか?
ズンさん
どうかなぁ?父の影響というのであれば楽器よりもリサイクル精神ですね。父は修繕が得意でしたし、ちょっと手を加えて新たな価値を生み出していました。『コンカフェ』で修繕した古い椅子やテーブルを再利用していることを思えば、影響を受けているのかもしれませんね。
ベッター編集部
過度に管理せず自由な環境のもとで子どもの自主性を育む。ご両親の教育方針は素晴らしいですね。
ズンさん
はい。それに関しては本当に両親には感謝しています。

52店舗全部が子どものようなものです

ベッター編集部
話を『コンカフェ』に戻しますが、現在はズンさんご自身はどんな業務をされているのでしょうか?
ズンさん
気付いたことはなんでも(笑)。商品開発など新メニューはすべて自分でチェックしています。新店舗オープン準備とかも。ダナン出店のときは1カ月間ダナンに滞在しました。ホーチミンの開店時は私が行くときもあるし、デザインチームに任せる場合もあります。
ベッター編集部
現在、特に力を入れていることとかありますか?
ズンさん
最近は食事メニューの充実ですね。ケーキメニューとか。地域ごとに異なる新鮮なフルーツの仕入れにも気を使っています。
ベッター編集部
さまざまな場所での開店に携わってきたと思われるのですが、特に思入れが強いお店はありますか?
ズンさん
52店舗すべてが自分の子どものようなものなので、特にお気に入りという店はないです。その日の気分でお気に入りの店舗も変わります。お客さんのカフェ選びの感覚と似ているかも……。
ベッター編集部
ではよく立ち寄る『コンカフェ』はありますか?
ズンさん
94 Đường Láng (Quận Đống Đa)にはよく行きますね。ここは『コンカフェ』にしては大型店ですが、水~日曜はライブをやることもありますから、それを観に行きます。
ベッター編集部
『ベッター』編集部のお気に入りの店は、ハノイだとQuán Sứ店(68 Quán Sứ, Quận Hoàn Kiếm)、ホーチミン市でしたらYersin店(93 Yersin, Quận 1)ですね。
ズンさん
そんなふうに言ってもらえるとうれしい。生活の一部でカフェを活用していただきたいですね。
ハノイの『Quán Sứ店』(68 Quán Sứ, Quận Hoàn Kiếm)『コンカフェ』の中では比較的大型店で2階の広めのテラス席も居心地よし。
ベッター編集部
ズンさんのオススメするメニューはありますか?
ズンさん
全部(笑)。基本メニューは全店舗同じですが、一部だけオリジナルがあります。
コンカフェで人気の『ヨーグルトコーヒー』(Sữa Chua Cà Phê)
今週末はコンカフェでゆっくり読書でもして過ごしたい…。
ズンさん
メニューは同じレシピで、すべて手作りです。日によって多少は味に変化があるかもしれません。そこは、人間がやることなのでやむを得ないと思っています。スタッフがうれしい気分の日、少し浮かない日などによって変化が生じることがまれにあるかもしれませんが、それも含めて楽しんでいただければうれしいです。
ベッター編集部
人間の曖昧さに対する愛おしさでしょうか、昨今のAI(人工知能)と人間の関係性にも通じるところがある気がします。ところで韓国には出店したそうですが、日本進出は考えていないのですか?
ズンさん
機会があれば考えたいですが、今のところはまだないです。(2018年時点)でも『コンカフェ』グッズが買えるショップは東京の目黒にあります。グッズとはいえ、品質チェックが厳しい日本で販売できたことは誇らしいことです。

いろんな角度から物事を考えてみては……

ベッター編集部
日本や日本人に関してはどのような印象を持ってますか?
ズンさん
日本の料理や建築が好きですし、謙虚さと力強さをあわせ持つ日本人の性格が大好きです。どちらかというとおとなしくて静かな印象ですが、私の性格も日本人と似ている気がします。『コンカフェ』のデザインは私の性格や思いが表現されている場所ですが、レイアウトやコンセプトなどに日本の文化の影響を受けています。似た性格だと思っている日本人の方に気に入ってもらえるとうれしいです。
ベッター編集部
では最後にカフェを成功に導いた創業者として、今後何かに挑戦したいと思っている人に対するメッセージをお願いします。
ズンさん
大切なのは自分でやってみるということ。勉強を繰り返すことも新しいアイデアを生み出す要因になると思います。現在のデザインチームからも「どうやってアイデアが浮かぶのか?」と質問を受けるのですが、大切なのは創造的思考を心掛けること。例えば、コップを見て飲む器以外の使い方はないかと考えてみるとか、一方からだけの見方ではなく、いろんな角度から考えるようにするといいと思います。
ベッター編集部
ズンさん、今回は取材を受けていただきどうもありがとうございました!

カテゴリー