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【ベトナムの日本人スタートアップ】調達額6億円以上!”最高の教育”を”世界の隅ずみ”まで届けたい、オンラインとオフラインを掛け合わせて最高の教育を

取材:2020年8月


本間 拓也 氏
Manabie INTERNATIONAL PRIVATE LIMITED|CEO(創業者)
山形県出身。東京大学経済学部を中退し、英国University College Londonを卒業。卒業後、同じヴィジョンを持ったDeNA創業メンバーの渡辺氏と意気投合し、ロンドンでオンライン教育アプリ「Quipper(クイッパー)」を創業。世界9か国に展開するまでに成長したあと、リクルートグループに売却。その後、「クイッパー」はリクルート社の「スタディサプリ」と融合。2015年から2019年までは、同社のインドネシアカントリーマネージャーとして新興国教育の最前線に。2019年に退社し、ベトナムでManabie(マナビー)を創業。
Manabie(マナビー)とは

マナビーは「Preparing us for tomorrow’s world」というミッションのもと、小中高生向けオンライン教育アプリの提供、学習センター(OMO型デジタル学習塾)の運営、また、現地の私立学校や日本人学校向けのオンライン移行サポート事業を展開。今年4月には、さらなる事業拡大に向けて総額約5.2億円(480万ドル)の資金調達を実施した。投資家には、元・サッカー日本代表の本田圭祐氏、ラクスル創業者の松本恭攝氏、IT企業経営コンサルタントの梅田望夫氏、グノシー創業者の福島良典氏のほか、VCや個人投資家などがいる。

Contents

子どもの頃の学習体験は、今につながっていますか?

母が小学校の教師で、楽しそうに仕事をしていたのが印象的でした。そういうこともあり、「学習」は子どもの頃から身近だったと思います。ただ、自分も同じように「教師になろう」と思ったことや、家庭教師などで人に勉強を教える経験をしたことはないんです(笑)中学校くらいからは学校での授業をさぼったり、大学時代もあまり学校にいかない学生でした。その代わり、自学自習することが好きで、当時は教育に対して自分なりの不満を持つこともあったのですが、そういった性格ゆえに「教育」というものを客観的にいろいろな角度から見ていたことが、今自分がやっている「オンライン教育」につながっていると感じています。

日本の教育のどういったところに不満を感じていたのですか?

一人の先生が数十人の生徒に対して同じ内容の授業をするのは、仕方ないとはいえ無理があるなと感じていました。生徒ひとりひとりで理解度が異なるのに、みんなで同じことをやるのは変だなと。また、受験用の勉強がベースになっていると思うので、いまの時代を生き抜くために本当に必要なスキルがカリキュラムとマッチしていないような気がしていました。英語やプログラミングなど徐々に追加されていっていますが、それはそれで先生たちが大変な思いをされているだろうなと。昔からのカリキュラムに加えて、新たな学習が追加され、同じ内容の授業を何度もするというのが、先生と生徒の双方にとって本当に生産性の高いものなのか疑問に思っていました。

一方で、日本は全国津々浦々で参考書が売られていますし、塾もどこにでもある、学校の授業も平均的に高いレベルのもので、ほとんどの人が一定水準以上の教育を受けられるところはすばらしいと思っています。新興国では、そもそも学校もなければ、参考書もないというような状況の人たちもたくさんいるので、まずはそれを解決したいと思うようになっていました。

一貫して教育事業に取り組んできた本間さんにとって、その源となっている具体的な原体験はありますか?

英国学生時代、友人との写真

東京大学へ進学したのですが、3年生のときに中退し、英国の大学に通いました。2007年くらいにiTunesが世界中の大学と提携してオンラインでいろいろな授業を聞けるというサービスを開始し、その中にはハーバードやスタンフォードといった大学もあり、世界のどこにいてもトップレベルの授業を受けられることに強い衝撃を受けたことを覚えています。この衝撃が原体験なのかもしれません。

ロンドンでクイッパーを立ち上げた頃の様子。さまざまな国の人たちと過ごした日々は、多様性が当たり前の世界で生きる力を与えてくれた。

英国での学生時代には、インドやアフリカ、中国などを旅したのですが、そのときに「現地の子どもたちが2時間かけて学校に通い、先生が来なくてまた2時間かけて帰る」という現場を見ました。2010年頃のことですが、教育インフラがまだ成熟していない国でもスマートフォンの普及は急速に進んでいました。そのときに、インターネットを介して高度な教育にアクセスしようと思えばできる、その土台はそろってきている、ということに気がつきました。同じ頃、同じヴィジョンや考えを持っていた渡辺さん(※)に出会い、ロンドンで一緒にQuipper(クイッパー)を創業することとなりました。

※渡辺雅之氏:DeNA共同創業者。2010年に同社を退職後、ロンドンで学習プラットフォームサービス「クイッパー」を創業し、CEOを務めた。

その後、クイッパーはどうなりましたか?

クイッパーにいる間、学校に行けないすべての子どもたちに「教育を届けたい」ということに取り組んできました。同社は創業4年半でインドネシア、フィリピン、メキシコなどにもオフィスを持つようになり、2015年にリクルートグループに売却することとなりました。私はクイッパーのブランドを引き継ぎ、Quipperのインドネシア・カントリーマネージャーとしてクイッパーの成長にコミットすることになりました。

インドネシアのカントリーマネージャー時代。インドネシアの学校を回って多くの学生たちの声を聞いた。

クイッパーのプラットフォームを基にした日本でのブランド「スタディサプリ」は2019年時点で、有料会員が世界で127万人(日本国内110万人)となっています。(※1)

クイッパーは順調なようですが、どうしてマナビーを創業しようと思ったのですか?

クイッパーを通じて、世界の隅ずみまで教育を届けるという「教育へのアクセス」については、きっと達成できるだろうと感じていました。私は一貫して「最高の教育を世界の隅ずみに届ける」というヴィジョンを持っているのですが、「世界の隅ずみ」についてはもう少し頑張ればいけそうな気がしていました。一方で、オンラインでの学習体験がオフラインのそれに勝っている状態にならないと、真の意味での学力の向上につながらないと考えるようになっていました。そこで、「最高の教育をどうやって届けるか?」という課題の解決にチャレンジしたくなり、クイッパーを離れ、2019年にマナビーを創業しました。

どうしてマナビーを”ベトナム”で立ち上げようと思ったのですか?

人口的に市場性があるということ、そして東南アジアのなかでも教育熱が高いということです。ベトナムの就学率は小中学校では9割を超えていて、高校が7割、工業系の専門課程を含めた大学進学率が4割程度です。学校での集団授業がメインで、7割くらいの子どもたちが塾などで補完教育を受けています。「塾」といっても、学校の先生が副業として自宅に子どもを集めて教えているので、クオリティにばらつきがあり、最近は政府がこれを禁止し始めています。参考書などの副教材についてもまだまだ改善の余地があるように思います。教育熱が高く、市場も大きいのですが、まだ古い体制での勉強方法や学習の仕組みが強く残っていて、オンライン教育によって解決できる問題のインパクトが大きな市場だと感じたので、ベトナムでマナビーを創業しました。

マナビーで提供している教育とは、どのようなものですか?

インターネットで質の高い教育にアクセスできても、自分で目標を設定し、やり方を考えて学習を続けられる人はそれほど多くありません。大人向けのオンライン教育でさえも終了率は5%という数字が出ています。

「教育へのアクセス」は順調に増えていますが、アクセスできた後に、きちんと自分で学習できるか、そして学習を継続できるかが今後の鍵になってくると思っています。中高生にモチベーションを保って自分で勉強しなさいと言うのは酷なので、マナビーでは一人で学ぶのが困難な子どもたちに向けたサポートにフォーカスしています。

例えば、ひとりで勉強して行き詰まっている時に勉強の仕方をアドバイスしたり、進路の相談に乗るなど、これまでは先生やチューター、ご両親がされていたところを、テクノロジーを使うことによって効率的に提供することを試みています。

ベトナムの学生たちの進路や勉強の相談にのるManabieのスタッフたち。

オフラインの教育には、100年単位で積み重ね、磨き上げられてきたノウハウがあると思っています。例えば皆が同時に同じ内容を学ぶシステムや宿題や予習復習など、効果の高いメソッドもあります。それをオンライン教育に効率的に取り入れています。一例ですが、決められた時間にライブ授業を行うことで学びに強制力を持たせるようなことも行なっています。

現在、マナビーの会員数や料金はどのようになっていますか?

オンライン教育の会員数は無料会員も含むと15万人となっています。料金は塾は月100ドルくらいで、オンラインの方はその3分の1くらいでやっています。今年に入ってオンライン教育への注目度が増したこともあり、想定よりも早くプロダクト開発を進めました。1年後には2万~3万人の有料会員数になることを目指しています。また塾に関しても、今後はハノイやダナンにも開校していきたいと考えています。

将来的に、学校が完全にオンライン化すると感じますか?

学習はオンラインだけで完結しなくてもいいと思っています。大学は完全オンライン化されてもいいのではないかと思いますが、高校まではそうは思いません。勉強するだけならオンラインだけでいいと思いますが、小学校から高校までの学校の価値は、その場に集まって、人間として生き方を学ぶというような側面もあると思います。部活だったり課外活動だったり。そういう場には、人とのコミュニケーションやリーダーシップなど、生きていく上でとても重要な学びがあります。学問を勉強するだけでなく、人間関係の中で経験することは、より深い学びを得るためのよい方法だと思っています。ですので、そこはオフラインのままがいいのではないかと感じます。

マナビーでも、ホーチミン市内に「塾」を5教室ほど運営しています。前述したとおり勉強の強制力を持たせる意味もあるのですが、勉強以外の部分を学ぶ意味でも、そこに行けば一緒に学ぶ仲間に会える塾のような場所がある方がいいと思っています。オンラインとオフラインを併用していくことで、よりいい結果が残せると信じています。オンラインとオフラインを良い形で組み合わせることで、それぞれの生徒にとって最高の形となるラーニングジャーニーを提供していきたいです。

世界各国の教育現場を見てきて、日本の教育との違いをどのように感じましたか?

東アジアにおける教育は、知識の装着というところに重点を置き、それに対して欧米では、クリティカルシンキングやディスカッションなどの能力を育成する教育が行われていると一般的に言われています。

これはどちらも重要で、どちらかだけやればいいものではありません。教育にはいろんな要素が必要で、それを各国が制度として取り入れていく過程でどれをどのように優先づけていったかということなのだと思います。

例えば日本での学校教育は、受験勉強が重要視されますが、それは社会が経済成長していく過程で工業化のための人材育成に求められた知識を測ることが必要だったからです。

率直に言えば、僕が学校の授業に興味を失ったのも、そういう画一的な部分ではあったのですが、逆に欧米では基礎学力の養成が課題になっているそうなので、現段階では、それぞれが自分たちにない教育文化をお互いから学んで取り入れようとしているのだと思います。

その試行錯誤も、インターネットを活用することで効率的に進めることができるでしょう。プライベート教育のなかでEラーニングを取り入れることで、学校教育ではカバーしきれない要素の学びにアクセスすることができます。世界中の教育を受ける機会は無限にあり、環境は整ってきているので、子どもたちにとっては国よりも家庭の教育フィロソフィがより重要になってくると思っています。

ベトナム人のコアメンバー採用やチームビルディングはどのようにされていますか?

現在、100人くらいのメンバーがいるのですが、コンテンツやセールスといった部門ごとのマネージャーから採用していきました。LinkedInでこちらが求める経験やスキルなどで検索し、リストに上がった人に対してアプローチする方法で採用しています。

チームビルディングについては、各人の当事者意識を育てながらボトムアップで仕事を作り上げていくカルチャーを意識した結果、とてもいい感じのチームができていると感じています。

具体的にはどのようなチームビルディングをされていますか?

それぞれの教育フィロソフィを持つベトナム人スタッフたちが、同じ世界を目指して、強いチームとして動きはじめている。

週1回オンラインでつながって、メンバー同士の成長や小さな成功体験を称え合うことをしています。他には、私がメンバーと1on1で面談したことや、私が考えていることを動画で全社に共有して、会社は何を目指しているのか、メンバーがどういうところでチャレンジしているのかといったことを全部公開するようにしています。社員の持っている問題意識を出し合うことで透明性のあるマネジメントを心がけてきました。

教育に関しては誰もが自分なりのフィロソフィを持っています。こうした場はベトナム人社員たちが自分の国の教育をこうしていきたい、というヴィジョンを聞く機会にもなっています。それぞれに考えが違う部分はあっても、目指す世界は同じであることを確認しながら、そのためにどういう優先順位をつけて、今は何をやるべきかという話し合いができるようにしています。

資金調達について苦労した点や投資家への説明で意識したことは?

スタートアップ企業が投資家にプレゼンするときに苦労する点の1つは、どのような成長曲線を描けるかを伝えなければいけない点です。数字に納得感を持たせることが難しい。私の場合は、前職で似たような事業やっていた経験から「1年後にはこのくらい達成できる」という説明をすることに自信はあったのですが、それでも実際は国も違うし前職とは同じようにはいかないよね、と言われることもあります。数字の蓋然性を伝えるためにゴールを山にたとえて一年後、二年後にはどこに到達しているかという登り方を説明するように、丁寧に事業のプレゼンをしてきました。

また、私自身の教育フィロソフィをしっかり説明し、『目指す世界の一致』を感じていただけたからこそ投資に繋がったのだと思っています。直近の資金調達に関しては、コロナ禍のなかだったため、すべてオンラインで進められ、投資家の方たちにとってもオンラインのみで意思決定するという初めての状況でした。そのため、通常よりも時間はかかったと思います。

投資家として参画された本田圭祐氏(元・サッカー日本代表)や松本恭攝氏(ラクスル創業者)からはどういうことを学んでいますか?

今回、当社に投資していただいた本田さんや松本さんとは、知り合いベースでの紹介で事業プレゼンをさせていただき投資に至りました。ラクスル松本さんからは、ゼロから会社を立ち上げて1千億円規模の会社に成長させ、かつグローバルに資金調達をされているノウハウを学びたいと思っています。本田さんは教育事業もされているので、将来的に何かご一緒できればと思っています。

お二人をはじめエンジェル投資家の方たちとは、ワンチームとしてやらせていただき、アドバイスをいただけたらと思っています。

COVID-19は事業にどういう影響がありましたか?

スタートアップから一年未満で起こったコロナパンデミックは私たちの事業にとっては大きな変化であったと感じています。

この期間を通じて、世界中で10億人くらいの子供が学校に行けなくなったわけですが、今までオンライン教育の必要性を感じていなかった親御さんや先生たちも、オンライン教育に一回は触れてみたという体験は大きいと思います。実際に、今回のことをきっかけに日本の大学や塾がオンライン化を進めようとしていて、当社もプロダクト開発やオペレーションについての相談を受けています。

今後のベトナムでの展開、また他国に進出していく予定はありますか?

ベトナムでは、マナビーのプラットフォームを学校に無償提供し、子どもたちには私たちのサービスを個別に加入してもらうという展開を今後も継続していきます。その延長にはタイやインドネシアなどの近隣国にも進出していきたいというヴィジョンもありますが、今の状況ではそれがいつになるかは見えていません。

オンライン教育がオフライン教育と同じ価値の学びをユーザーに提供できるのは間違いなく、今の普及率でも利便性やコストや効果が同レベル、今後はオンラインが加速していくことでより高い水準に達していくだろうと見ています。

そこをいち早く取り入れるのは塾や私立学校や大学で、公教育は時間をかけてそれらを取り入れていくという形になるのではないでしょうか。

オンラインが加速することによって、学習という観点ではネット上で完結するようになるかもしれませんが、一方でオフラインの価値も高まっていくでしょう。というのは、先ほども言ったように、学習以外の学びの体験、友だち作り、一緒に食事をしたり、スポーツをしたりというリアルな交流はオフラインでしかできないからです。

その部分は今後も公教育が担っていくと思うので、その現場にオンラインのプラットフォームを取り入れることで、学校教育が抱えている非効率性の問題を解決できるという事例を重ねて、今後も進めていきます。

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