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ベンチャーキャピタリストから見たベトナム・インドネシアの現状、その成功法則

取材:2020年4月
2011年からベンチャーキャピタリストとしてインドネシアで働き、現在はGenesia Ventures Incで東南アジア全体を見られている鈴木隆宏さんに取材しました。


鈴木 隆宏 氏
2007年4月、サイバーエージェント入社。2011年6月よりサイバーエージェント・ベンチャーズ(現:サイバーエージェント・キャピタル)へ入社、日本におけるベンチャーキャピタリスト業務を経て、同年10月よりインドネシア事務所代表に就任すると共に、東南アジアにおける投資事業全般を管轄。2018年9月末に同社を退職し、株式会社ジェネシア・ベンチャーズに参画。

起業家志望からベンチャーキャピタルへ

私が東南アジアのベンチャーキャピタルを目指したのは、学生時代からカンボジアへの支援活動やNGOのインターンをやっていくなかで、新興国の問題を解決するためには、世の中の仕組みから変えていくことが必要だと考えるようになったことがきっかけです。

当時、ビル・ゲイツがマイクロソフトで大成功した後に、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を通じて、社会的課題に資金と経験を注入しているのを見て強烈に憧れを抱いていました。そのため、自分自身も起業してビジネスで成功し、そのナレッジや経営ノウハウをソーシャルセクターなどで活かしたいということがあって、サイバーエージェントに入社しました。そこで関連会社の立ち上げなど、経営に近い経験をさせてもらいましたが、その間、自分の特性に気がつきました。

それは好奇心が旺盛すぎるが故にひとつのことを長く続けられないという「起業家には向かない性格」だったということです(笑)。そんなときにインドネシアのベンチャーキャピタルの立ち上げに声をかけてもらいました。もともと新興国で働き、社会的課題の解決に貢献したかったので、興味を持ち、それが今に繋がっています。

ベンチャーキャピタルの仕事は、想い&アイデアを持った起業家が急速な成長をするための資金と経営サポートなどを行い、将来的に上場、大企業からの企業買収などで我々が投資した資金を回収することです。特に我々のファンドは、創業前、創業初期のアイデアのみでこれからチームを作る、プロダクトを作るシード期と言われるタイミングで投資をさせて頂いております。

複数のスタートアップ(※1)を並行して支援することが可能なので、何人もの優秀な創業者の方たちと伴走しながら、経営参画をしているので、先ほど言った好奇心旺盛でいろんなことに関わりたい自分の特性には合っています。また、自分一人で会社を経営してそれを大きくするよりも、たくさんの会社の経営に関わって、それぞれの創業者が会社を大きくしてくれた方がより多くの雇用を生み出せるし、結果として彼らを通じて私自身はより多くの社会的課題の解決に取り組めております。そういう点でもこの仕事は、自分がもともとやりたかったことに合致しており、今では独立して自分がベンチャーキャピタルの代表者となっています。

東南アジアのスタートアップ創業者たち

Tokopediaメンバーたちとの食事会にて

東南アジアのスタートアップ、とりわけベトナムとインドネシアに注目している理由は、様々な産業が成長しており、またデジタルネイティブ(※2)と言われる世代が中心となっており、日本で謳われているデジタルトランスフォーメーション(※3)とは違い、そもそものオペレーションなどがデジタルをベースにしたオペレーション構築がしやすく、そこに大きなビジネスチャンスがあるという点です。さらにこの両国は人口規模が大きく、今後の市場に発展性にも期待できます。

インドネシアのトップ層の創業者は、米国の大学を卒業していて、グローバル企業での就業経験があり、ビジネスのネットワークを持っているというイメージです。ベトナムだと年齢的に30代後半だと現地で育った人も多いですが、20代だと米国で教育を受けて来た人が増えていますね。今現在、成功している東南アジアのスタートアップの創業者たちは圧倒的に優秀な人が多く、彼らは自国のビジネス機会を見極めて起業しています。

日本人の方から東南アジアでの起業の相談を受ける機会が少しずつ増えていますが、この地域でスタートアップするということは、彼らをライバルにすると言うことです。

ここで闘うには、英語を始めとする基礎的な語学力はもちろんですが、言葉はあくまでもツールなので、それ以上にグローバルなビジネス、マネジメント経験や高い視座が最低限必要になります。

「成功」するスタートアップ企業は約1割

2014年、ソフトバンクや世界最大級の投資会社セコイヤキャピタルからも投資を受けた

スタートアップ企業のゴールの1つが上場もしくはM&Aだとすると、5年くらいの期間でそこまでに至る企業は、100社に1社もありません。そこまでの成長でなくても、無理なく自分たちのビジネスを継続し、外部から資金調達できるというところでは10%くらいというのが現状でしょうか。

3~4年前までの東南アジアでは、Eコマースや一般消費者向けビジネス(BtoC)がトレンドでした。最近では、物流や小売のサプライヤー周辺のデジタル化などのBtoBが増えているという印象があります。

この傾向は今後しばらく続くものとみています。というのは、テクノロジー領域におけるBtoBビジネスの市場は、そもそもそこに商流があり、それをデジタル化することを意味するので底が硬いからです。

以前は、初期の段階で巨額の資金を投下して、広告宣伝なども力を入れ、その業界のトップシェアを取るなどの結果を出すことで会社の価値を高め、買収されることをゴールにするというビジネスモデルが盛んだった時期があります。

それでうまく行ったケースもありますが、当然そうでないケースの方が多く、それが続くとマーケットがいびつな状態になってしまいます。

最近では、そうしたスタートアップバブルの状態が一旦落ち着いて、結局大事なことは何かということを考えた時、ビジネスを持続させていくこと、それが可能なビジネスを作っていくことだという本来の流れに戻ってきたような気がします。

投資先の見極め方、そのポイント

一番左が鈴木氏、中央はTokopedia共同創業者CEOのWilliam Tanuwijaya氏、一番右は共同創業者COOのLeontinus Alpha Edison氏

具体的にどのような相手に投資をするかというと、ビジネスやマーケットの状況はもちろん大事ですが、「誰がやるか」ということが特に重要なので創業者の人間性には注目しています。

より端的にいうと「お金を稼ぎたい」というだけの人や自分自身の欲求を満たしたいという人はビジネスを長く続けられません。そういうモチベーションだと上手く行っている時は良いですが、壁にぶつかった時に踏ん張れません。また、チームをうまく作ることができないからです。

ビジネスを続けていく間には、結果を思うように出せない時期も出てくるのですが、そういうときにどう振る舞えるかが長期的な成功にとって大切ですので、創業者の人間性が重要になるのです。

投資先の選定は、そのマーケットとビジネス領域で勝ち得るかどうかがポイントで、創業者の国籍などは特に考慮していません。ただし、結果的にインドネシアでもベトナムでも現地国籍の人が創業する企業への投資が多くなっています。

今までいろいろな起業家の人たちを見てきて思うのは、社会に対する自分というものを秤にかけた時に、ユーザーを含めた社会というものに重心を置ける人、そうした社会への貢献を通じて自分を満たせる人の方が、ビジネスをうまく続けられているということです。

私たちは起業家たちと深くお付き合いし、そのプロセスで起業やビジネスのことだけでなく、その人の人生のいろいろな話を聞いていくことで、人間性を見極めています。

正しいチャレンジをしていれば追加投資も

先ほども言ったように、ビジネスを10年単位で続けていけるスタートアップは10社に1社程度なので、それ以外の会社は残念ながら解散することになります。

日本人の起業家には、ベンチャーキャピタルからの投資に恩を感じ、なんとかリターンを出そうと努力し、そのために自分たちのプロジェクトは脇に置き、他社からの受託開発に切り替えてでも会社を継続させていこうとする人が多く見られます。

一方、特に欧米での就業経験のある創業者は、仕事がプロジェクト単位という意識が強く、仮説を外してビジネスがうまくいかなくなったときにはきっぱり見切りをつけたりします。

そうしたケースでも、そこそこのユーザー規模があれば他社に買収されることもあるのですが、買収先が見つからない場合は解散となります。

私たちとしては、そのようなことはできる限り避けたいので、起業するときに、自分が関わるビジネス領域に対する問題意識を強く持って、それを解決しようとする意志を持った創業者に投資したいです。

そういう人の会社は、ひとつのプロダクトを外したとしても、解決課題のためのアプローチを変えて何度も挑戦します。トライアンドエラーを重ねても、その都度ゴールへの戦略の解像度が上がっていき、正しいチャレンジをしていると判断できれば苦しい局面であっても追加投資をすることができます。

インドネシアのユニコーン企業「Tokopedia」の成功ポイント~高いプロダクト志向~

今はユニコーン企業(※4)として世界的に注目されているインドネシアのTokopedia(2009年創業)のケースを紹介しましょう。

共同創業者のWilliam TanuwijayaとLeontinus Alpha Edisonはどちらもエンジニアでした。彼らには「パパママショップ」と呼ばれる中小の小売店をオンラインで結ぶことによって、そこの人たちが豊かに暮らせるようにしたい、インターネットを通じてインドネシアの経済成長に貢献したいという想いがあり、我々はそこに共感して投資しました。

当時のインドネシアのEコマース市場はまだ未成熟な状態で、インドネシア財閥系のBliBli.comの一強で、ほかには楽天など、もうクローズしてしまったサイトなどがいくつもありました。また、OLXの前身のTokoBagusは、クラシファイド的な掲示板サイトとして人気があり、中古品の売買などが個人間で活発に行われていましたが、まだ決済システムはありませんでした。同じ時期、ドイツのロケット・インターネットが進出してきて、さまざまなタイプのECサイトが展開されました。LAZADAもそのひとつです。

彼らが巨額の資本を投下してぐんぐん成長していく中でTokopediaの彼らは何をしたかというとクラシファイド的な掲示板サイトからビジネスを始めました。その頃の個人取引の掲示板サイトは出品者が自分で商品情報を掲載できていたので、実際に出品する商品以外の情報も載せることができてしまいます。そうなると、利用者は欲しい商品を検索してもその結果が正しく表示できないということが起こります。

Tokopediaはその構造を変えて、商品情報のデータベースを優先させてカタログにし、そこに出品者の情報を紐づけるという形のサイトに仕上げました。そのことによって検索結果が正確に出るようになり、なおかつSEO(※5)が強化でき、高いユーザーエクスペリエンスを提供できるサイトが構築できました。

Tokopediaの成功ポイント〜ロイヤリティのある組織づくり~

2012年くらいからBliBli.comやLAZADA、楽天などのECサイトがテレビCMを積極的に流すようになり、それによってインドネシアの消費者の間に「インターネットで物を買う」という習慣が広がるようになりました。

そうなるとSEOを強化してきたTokopediaにとっては有利な状況となります。なぜなら広告による集客を中心としていた大手のサイトは検索結果に表示されにくいからです。その頃からTokopediaの流通総額は急激に伸び始め、ソフトバンクなどの大手ベンチャーキャピタルからの投資を受けるようになり、積極的な事業展開が可能になったことで一躍インドネシアのトップECコマースとなったのは周知の通りです。

こうした彼らの歴史を見てみると、厳しい時でも自分たちができることをコツコツとやっていくことができたということが成功のポイントだったと言えると思います。

彼らにしたら、ライバルの会社が資金を投下して宣伝攻勢をかけているのを隣で見ていた時には焦りもあったはずですが、結果的にそれが消費者に対する教育となり、Eコマース市場を育ててくれました。

資金が少なかった自分たちは、その間にしっかりとプロダクトを作り込めたというプロセスはとても重要です。それができたのも彼らの視点がぶれずにしっかりと社会に対する貢献というところに向けられていたからでしょう。

また、東南アジアの会社は転職が多いことから人材のリテンションを気にしない傾向があるのですが、Tokopediaはその点についても初期の段階から、自分たちのビジョンやミッションを自分たちで言語化し、社内で共有するという意識を持っていました。

私もその点については創業者たちと意見を交わし、金銭以外のインセンティブで社員のモチベーションを保てる組織づくりの大切さを伝えていました。その結果、優秀な人材が長期に渡って働く企業文化を育てることに成功したと思います。資金力がついた今では、人材の採用にもお金をかけられるようになりましたが、今でもしっかりビジョン・ミッションをベースとしたエントリーマネジメントを行い、自分たちのビジョンに共感できる人を採用しています。

スタートアップを成功させるのに必要なのは、やはり創業者の視点が社会に向いているということ、それにプラスして提供するプロダクトへの意識を高く保ち、それを共有するチームによって組織を大きくしていくということだと言えるでしょう。


※1. スタートアップとは、新しく変革を起こすようなビジネスモデルで創業し、急成長を遂げて社会に新たな価値を生み出そうとする企業などの総称。
※2. デジタルネイティブとは、学生時代からインターネットやパソコンのある生活環境の中で育ってきた世代で、日本では1980年前後生まれ以降が該当するとされている。
※3. デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、ITテクノロジーにより人々の生活や企業活動がより良いものに変革されることをいう。
※4. ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル以上(約1,100億円以上)の未上場のスタートアップ企業。一般的には「創業10年以内」「評価額10億ドル以上」「未上場」「テクノロジー企業」といった4つの条件を兼ね備えた企業を指す。
※5. SEOとは、検索エンジン最適化(Search Engine Optimization)のことで、検索エンジンの検索結果において、特定のウェブサイトが上位に表示されるよう、ウェブサイトの構成などを調整すること。また、その手法の総称。

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