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M&A視点で見るベトナム市場と日系企業|Win-Winのアライアンス構築のために必要なこと

取材:2020年3月

主に日本の中堅企業とベトナムのリーディングカンパニーとの間のM&Aを進めている㈱日本M&Aセンター子会社、Nihon M&A Center Vietnam Co., Ltd. 代表取締役社長 渡邊大晃(わたなべひろみつ)氏に、日本とベトナムそれぞれにおけるM&Aの状況、ベトナム市場での戦略や成長性についてお話を伺いました。


渡邊大晃 氏(わたなべひろみつ)
1975年生まれ。化学メーカーを経て、2004年日本M&Aセンター入社。多くの上場・未上場企業のM&Aを成約に導く。 2010年以降、ベトナムを中心に米国、中国、インド、香港、台湾、マレーシア、タイ、韓国にて海外M&A多数支援。 2020年2月、ベトナム現地法人Nihon M&A Center Vietnam Co., Ltd. 設立、同社代表取締役社長/General Directorに就任。米国公認会計士(USCPA)、英ノッティンガム大学修士(MBA)

日本とベトナム、それぞれのM&A

M&A(Mergers&Acquisitions)とは、企業間の吸収や買収を意味します。経済のグローバル化が進むようになって、国境を超えたM&Aは今や一般的と言えますが、急激な経済成長を遂げているベトナムの市場にM&Aという手法で進出する日本の企業も年々増加しています。

事業承継者の不足によるM&A

まず日本国内におけるM&Aの状況について、大きく分けて次のような2つの視点で見ていくことができます。ひとつは承継者の問題でM&Aが行われるケースです。

現在、各種調査によると日本の中小企業経営者の平均年齢は60歳以上となっており、55~65%の事業体が「承継者がいない」という問題を抱えています。従来では親族承継つまり子どもやその配偶者が継ぐということが一般的でした。しかし、ライフスタイルや価値観の変化によって、親の事業を継ぐことに魅力を感じないという人も増えています。

それならば、社内承継つまり会社のナンバー2といった立場の人が事業を引き継げるかというと、個人保証の問題があるため日本では非常に難しいです。例えば金融機関から融資を受けるとき、債務者はその企業となりますが、経営者が連帯保証人になることが求められます。

ですから、継承する会社に銀行からの借り入れがある場合、それも承継者が引き継ぐことになるのですが、従業員という立場では信用上不可能となります。その企業が利益を出している優良企業だった場合にも、株価も高値となるため、個人がその会社の資産を取得するのは無理と言えるでしょう。

そのような事情で事業を継ぐ人が不在となると、企業には廃業かあるいはM&Aかという選択肢しかなくなります。その結果、M&Aを選択することによって他の企業に資本や事業を引き継いでもらうというタイプがひとつ目になります。

あらゆる分野で起こる業界再編

次は業界再編型のM&Aです。厚生労働省の予測では、日本の生産年齢人口は1995年の8,716万人をピークに、2020年の時点で7,406万人、さらに、2050年にはわずか5,275万人にまで減少するとみられています。平均で毎年約60万人の減少、2年間ごとで100万人都市が一つ消失することと同じインパクトがある構造的な環境変化です。生産人口が激減しているということは、当然それに合わせて消費市場も急激に縮小しているということですから、事業体そのものが過剰となってきます。

その結果、それに合わせた業界再編が行われることになります。この20年ほどの間、あらゆる分野において起こってきたことですが、特に金融や薬品、流通などの業界における再編成は非常に顕著で、市場が小さくなっていく過程で競争が激化し事業を維持できなくなった企業がM&Aを進めた結果、大手のシェアが多くを占めるようになりました。

さまざまなタイプのM&Aが加速

売却サイドからは、「傘下に入る」というネガティブな一般的なイメージとは別に、M&Aのメリットとしては、まず事業を安定的に継続できること、それによって従業員の雇用も守られることが挙げられます。そのため、業績が順調な企業やまだまだ現役で続けていける経営者の間でも積極的にM&Aを取り入れるケースが増えています。

また、M&Aにもいろいろな種類があり、中小および中堅企業や大手の傘下に入るということだけでなく、中小企業同士が合併したり、あるいは金融投資家の力を借りて事業を再建するというM&Aも活発に行われています。

いずれにしても、91年の弊社設立時には年間300件ほどだったM&Aが2018年では10倍の3000件となっています。また日本全体で見たM&Aの成約実数も公表されているデータの2~3倍はあるのではないかという見方が一般的です。

海外の市場を求めてクロスボーダーM&A

こうした状況の中で増えているもう一つの動き、それが国内の市場が縮小しているなら、成長しているマーケットに出ていくという海外進出に伴うM&A、クロスボーダートランザクションです。

日本企業の投資額が、国内と海外向けが2000年頃を境に割合が逆転しているのも、すでに述べたような国内市場の変化に合わせた動きになっています。代表的なのは、2014年にサントリーによる米国の蒸留酒「ジンビーム」のビーム社を買収したケースですが、取引額は160億ドルで日本円にして一兆円以上のM&Aとなっています。

こうした動きも含め、現在では7割ぐらいが海外向け投資となっているのではないかとみられます。また、特に最近増えているのは、地方に本社拠点を持つ、売り上げが数十億規模の中堅企業による海外でのM&Aです。

以前なら、地方でトップシェアを誇っていたような企業は、東京や大阪といった大都市圏への進出を指向していましたが、そこでも既存プレイヤーとの競争が激しいということで、東京・大阪を飛ばして、アジアの成長市場で展開していきたいという相談がこの5年間くらいで増えています。

中堅企業の東南アジア進出を支援

そうした中堅企業の海外M&Aをお手伝いするため、弊社は2015年にシンガポール、2019年にインドネシア支店を開設し、そして2020年2月にベトナムに現地法人を設立しました。

中堅企業の海外進出ニーズが増えているといっても、やはり北米やヨーロッパは距離や時差、言語などの点でハードルが高く、また中国の市場は規模が大きすぎて把握が難しく、政治体制などの点でも安定していると言い難い面があります。

一方、東南アジアは、日本から7時間程度と比較的近く、考慮しやすいと言えます。2000年頃までは日本の企業による東南アジア進出には、生産拠点の買収つまりコストセンターとなる工場を作るというケースが多かったのですが、今はその国の市場を意識し、現地で生産した商品、あるいはサービスをその国で消費し、その市場を獲得していくことを目的としています。

シンガポール拠点では、外国企業による投資規制が緩やかで透明性の高い成熟市場として、またASEAN区域のハブという機能として更にそこからの展開に注目しております。またシンガポールにもオーナー企業を中心に後継者問題を抱えている事業体は増えているので、ローカル会社同士のM&Aも手がけています。一方で、インドネシアは域内最大の約2.7億人市場という、そのマーケットサイズに大きく期待しており、今後の注力エリアとなります。また、近い将来マレーシアやタイへの拠点展開も検討しています。

ベトナムにおけるM&A事情

ベトナムでは年間300件(公表ベース)ほどのM&Aが行われています。これは弊社が91年に日本で事業を始めた時と同程度の規模ですが、非常に活発な動きがみられます。

2020年のコロナパンデミックによって、一時的な落ち込みは想定されますが、東南アジアでいち早く克服した国として、むしろ米中間の緊張の高まりを追い風にして、海外から投資先として注目を集め、ポストコロナ後は加速度的に増えていくものとみています。

弊社が過去ベトナムで手がけたM&Aは8件ですが、2012年と13年には日系企業同士のケースでした。また日系企業の工場を中国の企業が買収したというケースもあります。しかし、直近の案件はほとんど日系企業が現地ローカル企業へ投資するタイプのM&Aとなっております。

今はホーチミン(南部)に拠点を構えていますが、既に北部や中部でもM&A支援成約実績はあり、ベトナム全土で活動しております。業界的にいうとある程度成熟した法人間ビジネス(B2B)の業種の成約実績が多く、小売り、外食等の個人向け(B2C)の業界では、まだ商習慣が未成熟(不透明)な部分が目立つため、これからという段階です。

ベトナムの企業には後継者の問題もある一方で、日本とは違うニーズがあります。その結果M&Aも違う形になっています。現在弊社が扱う案件におけるM&Aの相手先は、ベトナムマーケットにおける上場企業や、業界のリーディングカンパニー、売上と利益が年間15%以上伸びているような勝ち組企業に限定されています。

ベトナムの平均点未満の中小企業におけるガバナンス、例えば帳簿や内部統制、コンプライアンス状況はまだ未成熟で、ウィークポイントが目立ち、クライアントに対して安心して紹介できないという事情もあるからです。

ベトナムでのM&A、その手続きと注意点

ベトナムに拠点を置くことにしたのは、成長しているベトナムの企業に、日系企業とのM&Aを斡旋することでより大きな発展を目指してもらう目的もありました。実際にアプローチしてみると、日本の企業と戦略的なパートナーシップを組んでみたいという反応は多いです。

そのような場合のM&Aは、会社の経営陣や既存の株主などは既存のまま残し、新たに株式を発行してもらい日本の企業がそれを引き受けるという、増資引受と経営参画(役員の派遣)をプラスしたパッケージが一般的となります。

これまでの交渉プロセスにおける合意事項を契約書に盛り込むことは当然のことですが、さらに将来の成長や変化に対応する決め事まで細かく契約書に記すことが大事です。特に懸案事項については、支払いを担保するなど、さまざまなケースを想定した上で話し合い、取引スキームをストラクチャリングしていくことで、あらかじめセーフティネットを作っておきます。

一方で、事業承継型のM&Aであっても最初から100%の資本を引き受けることはリスクが高い可能性があるので要注意です。企業を100%買収して、一気呵成に全部の事業と組織を引き継ぐのは一見簡単そうに見えますが、経営実態は外からではわからないことも多いので、潜在リスクは高まります。

まずは部分出資から開始して、パートナーとの理解を深めながら、その企業をともに共同経営することで価値を高めていくという、むしろプロセス自体が重要ではないでしょうか。各ステージで判断をし、時間をかけながら100%買収にしていくという、段階的買収スキームをお勧めしています。

ビジネスパートナー選びには「感覚」も必要

「ビジネスパートナーとなる会社を選ぶときに何を基準にするべきか」という質問をよくお客様から受けます。企業の価値を第三者が図るデューデリジェンスには、さまざまな観点がありますが、やはり最終的には経営者の人間性を見ることが大切です。

それは人格者であるかどうかということよりも、むしろ「ウマが合うかどうか」といった感覚的な面を大事にすべきかと思います。というのは、言語も習慣も価値観も違う相手同士が、実際に経営統合をしてビジネスを進めていったら、問題が出てくるのは間違いないからです。

その時に基本的な信頼感がないと話し合いのテーブルにつくこともできませんし、話し合いをするときにはお互いに尊敬し合えるかどうかが非常に大事になります。話し合いにおいて、特にコンプライアンスやガバナンスに対しては丁寧かつ厳格に合意形成し、その結果を明文化することも必要です。

Win-Winのアライアンス構築とは

いずれにせよ、海外でのM&Aはやはりその国で結果を出している企業を相手に選ぶべきということが言えると思います。このようなM&Aにおける、日本の企業にとってのメリットは、ベトナム進出の安全な足がかりを得ることができることです。

海外でビジネスを進めていくにあたってさまざまな調整や試行錯誤が必要になってきますが、現地の企業しかもリーディングカンパニーとM&Aという形でパートナーとなっていれば、それらが容易になります。

また、ベトナム企業にとってのメリットは資金が増え、ブランド力がつくだけでなく、日系企業という「戦略的なパートナー」を得られることです。それによって、これまで持っていなかった経営力や技術力を取り入れることができ、抱えている課題を解決することができます。こうしたM&Aを行うことにより、それぞれのシナジー効果によって相互の事業を加速的に成長させることができるでしょう。

ベトナムM&Aのポイント

株主関係

・最低資本金、最低投資額 〜なし(特定業種を除く)
・株主 〜株式会社は最低3名以上
・株主の要件 〜なし

機関関係

・会社組織
・株式会社と有限会社の2種類があり、有限会社については、出資者の数により1名有限会社と2名以上有限会社(50人まで)とがある
・日本企業の進出形態として最も一般的とされているのは有限会社。

設置機関

・株式会社:総会、取締役会、社長
・二人以上有限責任会社:社員総会、会長、社長(株主が11名以上いる場合は監査役会も必要)
・ 一人有限責任会社:会社代表者が1名の場合は会長、社長、監査役。会社代表者が2名以上の場合は社員総会、社員総会会長、社長及び監査役
・ 会社代表者(社長又は会長がなる)は、居住要件あり

総会

・有限会社の場合、出資割合による
・株式会社の場合、1株1議決権

決議

・普通決議:65%以上
・特別決議:75%以上
※普通決議に関しては、法律上65%以上となるが、定款で51%以上と定められていることの方が多い

取締役

・株式会社の場合は3〜11名
・居住しなければならない取締役の人数は定款に定める

ベトナムM&Aのポイント

外資規制とM&A手法

●外資規制
・業種及び投資金額によって、投資登録又は投資審査手続きを経る必要がある

●外資誘致政策
・奨励投資分野又は地域によって、優遇措置を受けることが可能。

●代表的なM&A手法
・持分・株式譲渡   ・合併
・事業譲渡      ・会社分割
・株式移転、株式交換はない。

その他留意点

●言語の規制 〜当局提出書類については現地語が必要
●労働関係 〜解雇事由は限定されている
●土地 〜土地は国有のため、政府から賃貸

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