【2020年最新版】ベトナム経済の現状、2020年はどうなる?2019年のベトナム経済を振り返り、今後の予測を試みる

2020年、Covid-19の影響を受け、世界中が経済に大きなダメージを追っています。2019年まで驚異的な経済成長を続けてきたベトナム。今回、首都ハノイにあるベトナム経済専門家のJETRO庄さんにインタビューをさせていただきました。

取材協力・監修

JETRO ハノイ事務所 庄 浩充 氏
2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、横浜貿易情報センター、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)、広報課を経て現職。

2019年のベトナム経済概況

ベトナム経済は近年、東南アジア主要国で最高水準といえる7%以上の実質GDP成長率を続け、外国からの投資の呼び水となっていました。

2019年の対ベトナム外国直接投資(出資および株式購入除く)は234億ドルと金額ベースでは2019年よりも下がっているものの、2018年から2019年にかけての許認可件数は25.6%もの伸びがあり、堅調な成長を続けていることがわかります。

2017年および2018年の国・地域別許可額は日本が1位、2位は韓国となっていましたが、2019年は韓国が1位となりました。さらに、香港からの投資が前年比90%増、中国からの投資が前年比76%増と急激に伸びたため、日本は4位に後退しました。なお、香港からの投資には、本社を中国に構える企業など、外資企業による投資が多く含まれる点は留意が必要です。

基礎情報基礎的経済指標(2019年)
実質GDP成長率 7%
一人当たりの名目GDP 2,740(ドル)
消費者物価上昇率 2.8(%)
失業率 2.9(%)※都市部
輸出額 264,267(100万ドル)
輸入額 253,393(100万ドル)
貿易収支 10,874(100万ドル)
政策金利 6.0(%)※期末値
対米ドル為替レート 23,050(ドン)※期中平均値
メモ米中貿易摩擦による生産移管
中国企業のベトナム進出急増

中国の対ベトナム直接投資の認可件数は2015年ごろから右肩上がりに伸びていたものの、それほど目立つものではありませんでした。しかし、2018年ごろからは米中貿易摩擦が後押しする形で急増し、2019年1~6月(上半期)に中国の投資認可額が国・地域別で首位になるなど、その存在感は強まっています。

しかし同時に、ベトナム国内では米中貿易摩擦の影響を受けた急激な生産移管の動きを不安視する声も広がっています。その内容としては主に下記のような点が挙げられています。

  1. 持続性を欠く投資による長期的な悪影響
  2. プロジェクトマネジメントや技術力の欠如
  3. 環境汚染のリスク
  4. ベトナム国内における地場企業との競争激化
  5. 中国産品がベトナム経由で米国に迂回輸出されるリスク

こうした事態に対し、ベトナム政府は環境や資源の保護、安全保障などの観点も踏まえた規定づくりや、運用の見直しに取り組んでいます。

日本からの投資は大型案件から次のフェーズへ

2019年における日本の対ベトナム投資は、件数自体が増加している一方、許可額では国・地域別の順位が下がっています。これは日本による大型案件がなかったこと、香港や中国からの投資の増加、が要因といえます。

日本からの投資は、2017年は大型のライフライン案件(火力発電所開発等)、2018年は大型の不動産案件(スマートシティ開発等)が大きな割合を占めていましたが、2019年はライフライン、不動産では大規模の投資認可がありませんでした。

2019年の日本からの投資傾向をみると、投資認可額では従来どおり製造業が牽引しています。一方、投資件数では近年、非製造業の件数が伸びているのが特徴です。特にコンサル等(税務、法務、ビジネスコンサル、建築・設計等)、小売・卸売、ITといった分野での投資件数が多いです。

イオン、ユニクロなど、出店が相次ぐ日本の小売業

小売部門で言えば、イオンモールのベトナム5号店となる「イオンモール・ハドン」が2019年12月、ハノイ市ハドン地区にグランドオープンしました。また、ユニクロも同じく2019年12月にベトナム初の店舗「ユニクロ ドンコイ店(ホーチミン市)」をオープンしました。ユニクロは2020年6月現在、すでにホーチミンに3店舗、ハノイに1店舗を設けるまで拡大し、話題となっています。

2019年12月、ベトナム1号店となりホーチミン市ドンコイ店の開店を待つベトナムの方たち

こうした動きの背景には、高い経済成長によって国民の生活レベルが向上し、消費市場としてもベトナムが魅力的になっていることがあるといえます。IMFの推計によると、2019年のベトナムの一人当たりのGDPは2,740ドルですが、ベトナム統計総局の新算出基準では既に3,000ドルを超えており、今後の消費市場拡大への期待はますます高まるでしょう。

基礎知識名目GDP ASEAN内ランキング(2018年)※世界銀行資料より
国名 名目GDP(億米ドル)
インドネシア 10,422
タイ 5,050
シンガポール 3,642
マレーシア 3,543
フィリピン 3,309
ベトナム 2,449
ミャンマー 712
カンボジア 246
ラオス 181
ブルネイ 136
ASEAN全体 29,690
メモ中部都市の開発、投資の現状
ベトナム政府は、国土の均衡的な発展を目指すなかで、中部ベトナムの投資環境の整備にも力を入れてきました。南部ではホーチミン市、北部ではハノイを中心に都市開発が進むとともに、人件費や賃料が高騰してきたことを受け、新たな投資先として中部のダナンなどが注目を集めました。しかし、日本からの投資件数を地域別に見ると、おおよそ南部5割、北部4割、中部1割で推移しており、中部における投資はまだ大きく伸びているとはいえない状況です。

ダナンの有名スポット・ドラゴン橋

それでも、中部はフエやホイアン、ミーソンなど、世界遺産に指定された観光資源に恵まれ、ホテルやレストランなど観光関連の投資先という一面もあります。日系ではホテル三日月が2021年に日本式レジャーホテルを開業予定です。

2020年1月から6月のベトナムの動き

ベトナムは新型コロナウィルスの市中感染、死者ゼロに

2020年は新型コロナウィルスことSARS-CoV-2による疾患の発生とともに明けた年になりました。周知の通り、このウィルスは全世界的に感染が拡大し、各国においてロックダウン(都市封鎖)を含む市民活動の制限などの対策が講じられ、半年経った現在(2020年6月)においても、予断を許す状況とは言えません。

ベトナムでは、1月23日に初めての感染者が発覚して以降、中国等からの帰国者経由で感染が拡大し、2月13日時点で感染者は16人となりました。感染発覚と同時に迅速で徹底した対策がとられた結果、いったん感染拡大の波は収まったかに見えました。しかし、3月6日に欧州からの帰国者の感染が発覚したのをきっかけに、感染拡大が進みました。その状況下、ベトナム政府は入国制限や外出制限を強化することで、感染者数は減らし、反対に治癒者数を増やしました。

ベトナム政府の休業命令により、デリバリーや持ち帰り、入店制限などレストランは営業制限を余儀なくされた。

4月17日以降は市中感染が発生しておらず、新規感染は外国からの帰国者のみで、隔離下に置かれています。この新型コロナウィルスとの戦いの中で、ベトナムが目立った医療崩壊を起こすことなく、死者をゼロに抑えられているのは、世界的にはも注目すべき点だといえます。

ベトナムのコロナ対策、早期の抑え込みに尽力

ベトナム政府は、武漢での感染拡大を受け、1月25日には中国からの入国者に医療申告を課すことを決めました。2月1日には中国からのフライトを全線停止にするなど、世界的にも新型コロナウィルス感染拡大への水際対策の初動が早かった国だといえます。国内では感染者と接触した者を隔離・監視下に置くことを徹底し、感染拡大のリスクの高まった村を3週間封鎖するなど、感染封じ込めを強化しました。

3月16日、ベトナムではマスク着用が義務化され、マスク工場では多忙な生産が続いた。

ベトナム政府は感染対策と同時に、新型コロナウィルスに関する正確で迅速な情報提供に注力しました。新たに作成した保健省のウェブサイトや公式アプリ※を通じ、新規感染者情報を逐次発信していくことで、国民の支持を得るに至りました。また、公衆の不安を招いて当局の対応に悪影響を及ぼすフェイクニュースの排除にも努めました。

感染拡大に対応した規制を徹底

欧米等からの帰国者経由で3月に感染者が急増したことを受け、ベトナム政府は3月18日からビザ発行の停止、入国時の感染陰性証明書の提示を要請しました。3月22日には外国人の入国は原則禁止となり、入国するベトナム人も2週間の集中隔離の対象となりました。

2020年4月上旬のホーチミン市レタントン通り。自動車やバイクの通りもほとんどなく、閑散とした雰囲気。レストラン、バー、SPAなどが一時閉店となった。

市中感染の抑制に向けては、外出制限措置を実施しました。ベトナム政府は全国民に対し、4月1日から15日間の自宅待機を要請し、その間はタクシーやバスなどの交通サービスも停止となりました。生活必需品・サービス以外の店舗も営業休止となり、多くの店舗はシャッターが閉まった状態となりました。ハノイ、ホーチミン市、ダナンなどでは、これらの措置が22日まで続き、その後地域ごとの状況に応じて、制限緩和が進んでいきました。

リスクへの対策と同時に経済活動再開

4月23日以降は、不要不急の行事やサービス業、または引き続き感染リスクのある一部の地域を除き、多くの経済活動が再開され、その後も段階的に規制の対象は少なくなってきました。

こうした状況を受けて、ベトナム政府は特に売上の落ち込みが激しい観光サービス業に向けた支援策として、ベトナム人の国内旅行を促進するためのプロモーションを期間限定で実施することにしました。例えば、ハロン湾やフエといった観光地の入場料について大幅値下げしたり、航空各社は再開する国内路線を増やすとともに、航空券の割引販売を行っています。

ベトナム国内線の乗客数は少しずつだが回復してきている。

また、製造業に対しては、4月の外出制限下でも感染対策が講じられていれば操業を認める方針をとりました。日系企業からは操業が認めらる基準やリスクが曖昧との声もありましたが、生産を完全に止めなくて済むようにしたことで、ベトナム国内の生産活動への影響は比較的抑えることができたといえます。

GDP成長率は低下も、プラス成長は維持へ

近年、7%を超えるGDP成長を続けていたベトナムですが、新型コロナウイルスの影響を受け、2020年第1四半期のGDP成長率は推計で3.82%に留まりました。これはリーマンショック以来、過去10年で最低の水準です。

隔離期間中、ベトナムで登場した「在宅は愛国」というプロパガンダ風のポスター。国民が一致団結してコロナ感染を抑え込んだベトナムの力は今後の経済をドライブさせると期待される。

農林水産業は世界的な需要減で水産物や果物などの輸出が下落。新型コロナウイルス以外にも、気候変動やASF(アフリカ豚熱)感染も影響しました。製造業は7.12%成長となりましたが、サプライチェーンの混乱などを受け、伸び率は前年同期よりも落ち込みました。サービス業では、やはり観光を中心に深刻な影響が出ました。

2020年第1四半期の操業休止企業は1万8,596社にも達し、前年同期よりも26%増えました。ベトナム政府は当初、2020年の目標を6.8%としていましたが、険しい道のりになりそうです。

それでも、影響を最小限に抑えるべく、3月6日に出された「首相指示11号」では、新型コロナウイルス影響下の企業活動を支援するために、総額280兆ドン(約1兆2,880億円)規模の支援計画立案を指示しました。これを受け、財務省は納税期限延長、計画投資省は資金支援、国家銀行は債務返済期限延長や金利減免を検討するなど、各省で企業・個人向け支援の策定が進みました。

ベトナムのサプライチェーンへの影響

2月頃は中国での新型コロナウイルス感染が深刻化し、中国の生産活動が大きく乱れた結果、中国からの部材調達の断絶や遅延が起き、ベトナムでの生産活動にも影響が及びました。ベトナムにとって、中国は最大の貿易相手国(輸出先で米国に次ぐ2位、輸入で1位)であり、その影響の大きさが懸念されました。

その後、感染は韓国、日本、ASEANに広がるに連れ、どこか1地域で生産活動の停滞や停止が起きると、サプライチェーンを構成する他地域の生産にも影響を与えるケースも出てきました。

現在は、サプライチェーンによる生産・物流への影響よりも、輸出先の市場の低迷を懸念する声が高まっています。3月以降、中国や韓国の感染は収まりつつありますが、日本、欧州、米国では感染収束および経済回復の見通しがたっているとはいえない状況です。いずれの地域も、ベトナムにとっては、極めて重要な輸出市場であり、ベトナムで生産は可能だけれども、発注量が減ってしまうという心配があります。

コロナ後のベトナムに注目

今回の事態を受け、中国から生産拠点を分散する動きが強まるとの見方があります。新型コロナウイルスの発生が直接的な要因となり、生産拠点をベトナムに移すという事例はまだ聞きませんが、米中貿易摩擦と同様に生産移管を加速される要因の1つにはなるかもしれません。

ただし、日本企業の多くは、以前から「チャイナプラスワン」や「タイプラスワン」など、アジアにおける生産ネットワークの最適化、多元化、リスク分散、集約化を中長期的な戦略のもとに進めてきています。ベトナムは様々な要素を考慮すると有力な投資先候補であることは間違いないですが、これを機に大規模は生産移管がたくさん起こるとは考えにくい面もあります。いずれにしても、今後の予測のための状況分析にまだ時間がかかりそうです。

コロナ禍ではリモートワークなどの働き方が広まるとともに、Eコマースの利用やキャッシュレス化が進みました。これを機に、デジタル技術を活用した新しい働き方や設備投資、ビジネスが広がる可能性があります。消費者のマインドにも変化がみられ、これまで以上に安心や安全を意識した商品・サービスへの関心が高まると推察されます。新型コロナウイルスの収束が早いベトナムだからこそ、「ニューノーマル」(新常態)の経済活動に注目です。

メモベトナム政府による対コロナ・経済政策の一例
2月|フック首相、新型コロナウイルス対策会議で計画投資省に対して2020年後半の成長を主体にGDP成長率を6.8%に維持する計画の作成を指示

3月|新型コロナウイルス影響下の企業活動を支援するために、総額280兆ドン(約1兆2,880億円)規模の支援計画立案を指示

4月|税金および土地賃貸料の支払期限延長に関する政令を公布
(農林水産業、建設業および特定の製造業のほか、各種サービス業、また中小企業支援法の細則で規定された零細企業と小企業等を対象に付加価値税、法人税、個人所得税および土地賃貸料の支払期限延長を即日施行)

ベトナム商工省、2020年4~6月の電気料金の減免を決定
(工業および商業向けの電気料金は、全時間帯で10%引き下げ、観光宿泊施設は、安価に設定されている工業向けの料金が適用)

5月|ベトナム政府、新型コロナウイルス対策会議において、国内観光を促進する方針を発表

(取材:2020年3月~6月)

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